巨大化してきた「あこがれのクラウン」
以前、トヨタ・クラウンのCМで、俳優の石坂浩二さんが「いつかはクラウン」という名セリフを語っていました。
バブルより少し前の1980年代前半のことです。
いつかはオレもクラウンに乗れる身分になりたい……。
そんな世の中の空気を代弁していました。
トヨタ・クラウンは、日本の乗用車の頂点に君臨していました。
正確にいうと、その上にトヨタ・センチュリーという最高級車がありますが、まあ、そちらは、運転手を雇える別世界の人たちのクルマです。
当時のクラウン(7代目)は、王様にふさわしく、なんと、3ナンバーでした。
あのころ、3ナンバーのクルマなんて、ほとんどありませんでした。
クラウンは、全長 4,860 mm、全幅 1,720 mm、全高 1,420 mmという、堂々たる体躯で庶民の羨望の的になりました。
けれども、ここで「それが堂々たる体躯なの?」と感じたあなたはさすがです。
全長こそデカいですが、全幅 1,720 mmというのは、いまでは、極めてありふれたサイズですよね。
ちなみに、いまのミニ・クーパーなどは、横幅が1,725mmあります。
往年のクラウンは、ミニよりも、ちっこいクルマだったのです。
クラウンはその後、むくむくと成長していきました。
現代の15代目(2018年~)は、全長 4910mm、全幅1800mm、全高1455mmという、ゴージャスなサイズになりました。
今度こそ、「堂々たる体躯」として認めてもらえますよね?
その堂々たる体躯に追いついちゃったコンパクトカー
このように、いまのクラウンは巨大化しているのですが、それ以上に巨大化しているのが、実はコンパクトカーたちです。
2017年にデビューしたシビックは、ハッチバック、セダンともに、全幅がクラウンと同じ1,800mmです。
スポーツ仕様のシビック タイプRは、1,875mmまでデカくなりました。
2018年に登場したカローラスポーツは、全幅が1790mmです。
コンパクトカーの代表、フォルクスワーゲン・ゴルフも、全幅が1,800mmあります。
ボルボ最小のV40も、全幅1,800mmですね。
メルセデスベンツの末っ子、Aクラスも、最新型がついに全幅1,800mmとなりました。
運転の苦手な私は、そんなに大きなクルマではせまい道を走れないので、欧州コンパクトカーでいちばん小さい部類のBМW1シリーズに乗っています。
けれども、そのBМW1シリーズも、最新モデルでは1,800mmになってしまいました。
世の中のコンパクトカーたちが、こぞって全幅1,800mmラインに集結しています。
「1,800mmであらねば、コンパクトカーにあらず」という感じです。
ここで、「クラウンと同じ横幅になっちゃったのに、なぜコンパクトカーと呼べるの?」と疑問に思ったあなたは、めちゃくちゃにすごいです。
ここにいまのコンパクトカーの矛盾が生まれているんですよね。
デカいのに、コンパクトカーなんです。
全幅がクラウンに追いついちゃったのに、コンパクトカーとか、プレミアムコンパクトとか呼ばれているのは、実は、コンパクトカーの基準が全幅ではなく、全長にもとづいているからなのです。
ヨーロッパでは、クルマをその大きさによって、Aセグメントから、Eセグメントくらいまでに分類するのが一般的です。
このうちAセグメント、Bセグメント、Cセグメントのクルマたちが「コンパクトカー」と呼ばれています。
それぞれのサイズに明確な規定はありませんが、だいたい、次のとおりです。
Aセグメント:全長3,750mm以下
Bセグメント:全長3,750mm~4,200mmくらい
Cセグメント:全長4,200mm~4,500mmくらい
このヨーロッパ流の尺度に照らし合わせると、たとえ全幅がクラウンに追いついちゃったとしても、全長が範囲内に収まっていれば、「コンパクトカー」なのです。
日本では果たして全幅1,800mmが「コンパクト」か
ヨーロッパ流の尺度で、横幅がそれほど重要視されていないのは、道路事情が日本と違うからなのでしょう。
早い話、海外では道幅が広いから、全幅が広いことはあまり問題にならないのです。
いまは日本のクルマも、国内より海外向けに販売されていますから、どうしてもこのグローバル基準に沿って進化しはじめているわけですね。
けれども、そうなると、せまいニッポンに住んでいる私たちはちょっと困ってしまいます。
運転しやすいからコンパクトカーを選んでいるのに、ヨコ幅が広かったら走りにくいです。
もっと深刻に悩んでいらっしゃるのは、自宅の駐車場がせまい方々です。
ずっとカローラだったのに、今度のカローラにはもう乗れない……。
新型シビックがカッコいいから乗り替えたいのに、あのデカさではうちの駐車場には無理……。
そんな感じで歯噛みしているユーザーも多いのではないでしょうか。
ここで俄然、輝いて見えてくるのは、王者クラウンです。
実は、クラウンは、全幅が1,800mmに達してから、フルモデルチェンジしてもそれ以上にデカくなりません。
ライバルのメルセデスベンツCクラスやBМW3シリーズなどがもっと巨大化して、ゆとりの空間をアピールしているのに、クラウンは、グッとこらえて全幅1,800mmをキープしているのです。
クラウンがこれ以上にデカくならないのは、日本国内向けにつくられているクルマだからです。
長年、クラウン一筋できている国内ユーザーが乗りづらくなることはしないわけです。
これとは対照的に、以前は小さかったのに、クラウンを追い抜いて、さらにデカくなろうとしているのが、スバルのレガシィB4です。
レガシィは以前には5ナンバー枠でしたが、いまは全長4,800mm、全幅1,840mm、全高1,500mmという、巨大サイズに進化しています。
2019年2月にアメリカのシカゴで発表された次期レガシィは、さらに全長が40mm大きくなっていました。
それでも、かつてのレガシィファンたちは、私も含めて「全長しか大きくならなかった!」と、ヘンテコな感慨にふけりました。
レガシィファンのなかには、もうそこまで諦めモードに入っている人が少なくないのだと思います。
それでは、いま1,800mmラインに集結しているほかのコンパクトカーたちは、この先、どうなっていくのでしょうか。
もしかしたら、いつかはレガシィ!?という方向で、さらにデカくなっていくのかもしれませんね。
海外がそういう潮流になっていけば、日本車も生き残るために、対応していくしかありません。
横幅1,800mmまでは付き合えたけど、もうこれ以上、このクルマを乗り継ぐことはできない……。
そんな国内ユーザーが続出する事態にならないように願うばかりです。
クラウンのように、いじらしく国内ユーザーのことを思い続けてくれるクルマがもっと増えてきてほしいものです。
※ 横幅1,695mmラインに集結してきているコンパクトカーたちについては、また別の記事でまとめさせてください。